実際の海域で船舶が遭遇する海洋波の方向波スペクトルを推定するには、船を方向波の観測に用いる観測ブイ(例えば、Heave/Pitch/Roll buoyなど)と見立てれば良い。しかしながら、船体が前進速度を有する場合については、未だに標準的な手法は確立されているとは言い難い。ここでは、橋本ら1)によって開発されたEMEP(Extended Maximum Entropy Principal Method)をもとに、追波状態までを扱える方向波スペクトルの推定法を新たに提案し、数値シミュレーション並びに水槽実験により、提案手法が追波状態も含めて高い推定精度を有することを示す。なお、本手法による実船試験データの解析結果については4章で示す。
(1)数値シミュレーション例
シミュレーションの対象としては、図2.4.1に示すスターアレイが一定速度Uで進行している場合を想定する。スターアレイは、波高計アレイによる方向波スペクトルの観測で、4台の波高計を使用する場合の最適配置の一つ2)とされているものである。本推定法の分解能の例を図2.4.2に示す。図は絶対周波数fと出会い角χについて方向波スペクトルの形で示してあり、“Input”と表記されているものが入力した方向スペクトル、“Estimated”と表記されているものが本推定法によって推定された結果である。図にはEMLM3)(Extended Maximum Likelihood Method)で推定した結果を併記している。図から判るように、本推定法による推定結果は、わずか4成分の情報から、追波状態を含めて、一方向波、二方向波とも明瞭にピークをとらえ、エネルギー分布も入力値をほぼ再現できている。